約 3,257,928 件
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/227.html
届け、いつか(前編) ◆iDqvc5TpTI 『貴女の声は決して届く事はない。 いや、届く相手はいる、聞き届けるものも居るだろう。 それでも、その声は本当に届けたいものには、届く事はない。 貴女の声は、そもそも貴女の言葉など必要としていないものにしか届かない かつて手を取り合った、勇者という存在にすら届かない。 もはや必要としていないのだから。』 夢と現の境界で誰かの声を聞いた気がする。 夢を渡る力が混線でも起こしたのだろうか? ロザリーは実体のない世界で首を傾げる。 感応石を持ったまましてしまったオディオのロザリーへの独白が偶然ロザリーの力と相まって届いたのだということを彼女が知る由もない。 ただ、その言葉が自分のメッセージへの返答だということだけはおぼろげに察していた。 認めたくない言葉だった。 けれど安易に拒絶していい言葉だとも思えなかった。 その言葉には憐れみも、嘲りも、馬鹿にする響きも含まれていなかったからだ。 自分の言葉を受け、真摯に、心の底からこのメッセージを返してきてくれたのだとロザリーは受け取った。 そうなのかもしれませんね……。 ロザリーは俯く。 思い出すのは意識を失う前の記憶。 マリアベルから告げられた英雄の真実。 子どものように泣きじゃくり、憎しみを露わにする勇者。 ユーリルは勇者になんかなりたくなかったのではという想像。 もしそれが真実だとするならば。いや、紛れもなく真実なのだろう。なら。 手を取り合えると言った彼女自身が大切な恩人であるユーリルのことを理解できていなかったことになる。 メッセージが届かなかったのも当然ですね 自分にもできていないことを他人に求めたところで相手を納得させられないのは当然なのだ。 ロザリーは顔を上げる。 その顔に笑みは浮かんでいなかったが、しかし強い意志は宿ったままだった。 伝えたい心を伝えられない時にどうすればいいのか、ロザリーは既に答えを出していたではないか。 一つの言葉で伝わらないなら、何度でも言葉を重ねればいい。 理解できていなかったのなら、今度こそ真に手を取り合えるよう何度でもユーリルと語り合えばいい。 何度でも、何度でも、何度でも…… ▼ 夜天より声が降り注ぐ。 人の心を穿ち、地へと打ちつける言葉の弾丸。 誰かの、知己の、仲間の、友の訃報を告げる声。 ある者は嘆き、ある者は怒り、ある者は笑い、ある者は喜ぶその声が幸いとしてピサロの想い人の名前を呼ぶことはなかった。 だというのにピサロの様子は先ほどまでと何も変わらない。 凶刃を納めることなく雨に沿うかのように熱を奪われた青い顔を晒し、怒りのままにイスラ達と刃を交えていた。 ピサロは放送など聞いていなかった。 激しさを増した雨音が耳に届くことを妨げたからか。 天地を跋扈する稲妻の轟音により異界の魔王の声が打ち消されたからか。 否。 元より今のピサロにはただ一人を除いていかな声も届きようがなかった。 ああ、もしも、もしも本当に。 ロザリーが死んでいてオディオにより名前を呼ばれていたならば。 一瞬、たかが一瞬といえどもピサロは立ち止まったかもしれないのに。 どれだけ憎悪に狂おうとも、どれだけ怒りに飲み込まれようとも。 ピサロがその名前に反応しないことなどありえないのだから。 ――なんという皮肉 彼を凶行に駆りたてたのが愛するものの死ならば。 僅かな時なれど止め得たのも愛するものの死のみとは。 ――なんという滑稽 愛するものは存命ですぐ傍らに転がっているというのに。 ピサロは手を伸ばそうともしない。 ロザリーを愛した魔族『ピサロ』ならたとえそれが死骸でも手を伸ばそうとしたであろう。 だがここにいるのはデスピサロ。 人間を憎み、滅ぼす為に一度は愛するものの記憶すら捨て去った復讐の魔王。 雨などという生易しいものではない。 若き魔王の心の中では嵐が吹き荒び雷が荒れ狂っていた。 その雷は 「カ、カエル、まさかお前がロザリーを!?」 飛び込んできた言葉を引き金に開放されることとなる。 ▼ 戦況は膠着状況に陥っていた。 無力なアナスタシアを護るべく円陣を組んだブラッド達の一団を攻める側は切り崩すことができなかったのだ。 初期状況で北にユーリル、西にピサロ、南に魔王とカエル、東に逃げ場の無い建物と四方を完璧に囲っていたにも関わらず、だ。 さもありなん。 攻める側の四人はカエルと魔王を除いて協力関係ではなかった。 どころか互いが互いの敵でもあった。 潰し合ったのだ、守る側に攻め込みつつもこの四人は。 「貴様か、勇者っ! 貴様が、貴様がロザリーをっ!!」 ピサロからすればユーリルは勇者――ロザリーを殺した人間どもの守護者にして象徴だ。 真っ先に始末してやらなければ気が済まなかった。 彼に殺された直後からオディオに呼び出されたこともあり、ピサロがユーリルを敵視しない理由は一切なかった。 その勇者が他ならぬ人間を目の敵にして殺そうとしていることを疑問に思うだけの冷静さは残っていなかった。 「うるさい、うるさい、うるさい! 僕を勇者と呼ぶなっ! 消えろ、消えろ、魔王! 殺させろ、アナスタシアを殺させろおおおッ!!」 ユーリルからしてもピサロは憎むべき相手だった。 アナスタシアがユーリルの幸せな幻想を完膚なきまでに砕いた下手人なら、ピサロはユーリルの現実的な不幸の直接の元凶なのだ。 エビルプリーストに謀られたからという事実は言い訳にはならない。 人間を根絶やしにせんとした魔王にして、予言に詠われた地獄の帝王を継ぐもの。 勇者の対存在。こいつさえいなければユーリルは勇者としてではなくユーリルとして生きられたのに。 その魔王があろうことか邪魔をする。アナスタシアを、英雄を殺すことの邪魔をする。 ピサロにはそのつもりがなくともユーリルにはまるでアナスタシアが、シンシアが、世界そのものが。 勇者たれと、呪詛を吐き強いているようにしか思えなかった。 「チッ、正真正銘勇者の剣か。バリアが剥がされるとは」 冷静さを保っていたカエルと魔王は最初こそは上手く立ち回れていた。 ユーリルがアナスタシアのことしか目に入っていなかったこと。 ピサロが人間の姿ではないカエルと耳の形がエルフにも見えなくもない魔王を後回しにしたこと。 二つの幸運が重なって当初危険人物から狙われることのなかった二人は攻撃側に加勢した。 正しくは便乗した。 他の参加者を減らしてくれる殺し合いにのった人物と現時点で敵対するメリットはない。 逆に優勝への大きな壁となり得る大集団をここで潰しておくことは非情に有益なものだと踏んでのことだった。 しかしながら話はそう上手くはいってくれなかった。 豪雨を味方につけ蛙の本領発揮とばかりに獅子奮迅の活躍をするカエルに負けじと魔王もまた豪雨を利用することを考えた。 それがいけなかった。 よりにもよって魔王が選んだのはサンダガの呪文。 魔王にとっては単に雨に濡れた相手になら常日頃以上に雷呪文が効果を発揮するだろうと思っての選択で他意はなかった。 実際ピサロやユーリルの雷は上昇した通電効果もあって猛威を振るっていた。 しかし、ユーリルからすれば話は別だ。 よりにもよってよく聞けば『魔王』と呼ばれる男が『友達』が使っていたのと同系統の『雷』呪文をこともなげに扱ったのだ。 アナスタシアには遥かに劣れど、ユーリルの殺意を買うには十分過ぎて、 「これが、勇者だと? こんな、こんな殺意に凝り固まったものが! 認めん、俺は認めん!」 そのユーリルの姿もまたカエルの怒りを買うには十二分だった。 混戦だった。 守る側が防御に集中している中で殺す側は守る側と殺す側両方を敵に回して疲労していった。 それが守る側の思惑であるとも知らずに。 「すごいや。おじさんの目論見通り大分ピサロだっけ、銀髪の動きが鈍ってきたよ。 これならあいつを抜けて後ろの方で倒れているロザリーって人を起こしにいけるようになるのも時間の問題かな」 「ユーリルの方もじゃな。スリープいつでもいけるぞい?」 端からブラッド達は守り一徹の持久戦狙いであり、ユーリルとピサロを殺す気はなかった。 マリアベルの仲間の知り合いだと知ったブラッドが指示したのだ。 ピサロの誤解もいささか仕方がない状況だったことと。 アナスタシアが殺し合いに載っていたこともあり彼女を襲っていたからといってユーリルが悪だとは限らないこと。 甘いと抗議していたイスラもこの二つの理由と他大多数の賛成意見に渋々承知し作戦は決行された。 内容は以下の通りだ。 ピサロとユーリルを疲弊させきった後にマリアベルのスリープで眠らせ、残る二人を四人がかりで数の利で押し切る。 以上一文それだけだ。 いささかシンプルではあるが状況を鑑みるにベストなものではあった。 ピサロとユーリルは見るからに万全とは程遠い状態だった。 そんな身体で後先も考えずにあのペースで感情のままに暴れまわれば遠くないうちに倒れるだろう。 加えてこの豪雨。 生物が動くのに嫌でも必要な熱を奪う水に打たれっぱなしの状態では息切れするまでの時間も加速度的に早くなる。 そう推測した上でのブラッドの作戦は前述の潰しあいもあって大成功だった。 「時が来たら機を逃すな! アキラ、引き続きかく乱と回復を頼むッ!」 「任せな! あと一息ッ!」 そう、後一息。 傍目にはピサロとユーリルは限界まであと一息に思えた。 その一息が限りなく遠いものだったことを直後ブラッド達は思い知ることとなる。 「そこまでだ、魔王! リルカとルッカの仇、取らせてもら……ストレイボウさん!?」 新たに戦場へと踏み入れた二人組の人間、そのうちの一人ストレイボウをきっかけとして。 ▼ 座礁船への道すがらに戦場へと辿り着いた瞬間、ストレイボウはジョウイの静止も振り切り駆け出していた。 心配していた少女たちと言葉を届けたい友。 両方が一度に見つかり、しかも交戦しているとあればいてもたってはいられなかった。 だがその速度が現場に近づくにつれみるみると落ちていく。 ストレイボウは歩くことも忘れ、その衝撃的な光景に打たれるしかなかった。 降り止まぬ雷雨の中倒れ臥す一人の少女。 忘れるはずがない、ストレイボウに道を示してくれたあの心優しき少女だった。 そのすぐそばで戦いを繰り広げるカエルとマリアベル。 姿も形もないニノに女性のものだったと思われる誰とも判別できない無残な骸。 第二回放送で告げられたシュウとサンダウンの死。 それら断片が半日前の光景と重なりストレイボウの中で最悪の想像が鎌首をもたげる。 信じると決めた。 裏切らないと決めた。 けれど一度膨れ上がった疑念を抑えることはできなかった。 「カ、カエル、まさかお前がニノとロザリーを!?」 「ストレイボウ、俺は」 「あ……。お、俺は。すまない、すまないカエル!」 どこか悲しげなカエルの声に状況が状況とはいえ友を疑ってしまったことを恥じるがもう遅い。 その一言が転機となった。 なってしまった。 ぴたり、と。 それまでカエルのことなど気にもかけていなかったピサロが動きを止める。 「人間……今、貴様、誰の名前を呼んだ? そこのカエルがロザリーを殺しただと……?」 荒れ狂っていた寸前までとはうって変わって抑揚を感じられないその声がかえって恐ろしかった。 ぎぎぎぎぎ、と首を動かしたピサロの目がストレイボウのそれとかち合う。 煮えたぎる闇が凝り固まり形をなしたかのような瞳にに射られてストレイボウは立ち竦む。 カエル以上に今の彼は蛇に睨まれた蛙だった。 ▼ 一度目は偽りだった。 二度目は自身だった。 三度目は親友だった。 そして、四度。 否、五度、男は魔王と対峙する。 「答えろ、人間。そこのカエルが私のロザリーを殺したのかと聞いているッ!」 ストレイボウは押し黙るしかなかった。 自身がその答えを知らなかったからでもあるがそれ以上にピサロの表情から声に至るまで全てに表出している殺気が彼に沈黙を強いさせた。 殺される。 下手なことを言えば殺される。 カエルが、カエルがこの男に殺されてしまう! それは正しい判断だ。 ピサロは殺す。 何よりも優先してロザリーを害したものを殺す。 今この場に限ればロザリーは死んでもおらず、彼女を傷つけたのもユーリルであったがそんなことは関係ない。 既に一度、カエルはロザリーを死の淵まで追い詰めたのだ。 それだけでピサロがカエルを殺すに理由としてはお釣りがくるほどだった。 「だんまり、か。そうか、そうか貴様だったのか。両生類の分際が、私のロザリーをっ!」 ストレイボウの沈黙を肯定と取ったのだろう。 ピサロの中からはもはや勇者も有象無象の人間たちも消えていた。 有り余る憎悪の全てをカエルと、彼を庇うかのように黙り通した人間へと向けていた。 「お、落ち着いてくれ。あんたが誰かは知らないがまだそうと決まったわけじゃ」 「……」 自分の失言のせいで友が危機に陥いることを防ごうとしどろもどろになりながらも何とか声を出すストレイボウ。 無意識にピサロへの恐怖から逃れようという意図もあったのだろう、必死に舌を動かす彼とは対照的にカエルは口を閉ざしたままだ。 誤解こそ含まれてはいるがカエルがロザリーを殺そうとしたのは事実。 堕ちたとはいえど誇り高い彼には言い訳をする気などさらさらない。 「いいんだ、ストレイボウ」 「お、俺はこんなつもりじゃっ」 「分かっている。これは俺の身から出た錆だ」 ストレイボウにかけられた声からはカエルが本心からそう思っているということが伝わってくる。 それが余計に辛かった。 何を、何をやっているんだ、俺は!? 本当に何をやっているのだろう。 ストレイボウが後悔に沈む暇すらピサロは与えてはくれないというのに。 「異言はないようだな――よく、分かった。死ね」 ピサロの足元から幾条もの黒き魔腕が這い出でる。 瘴気を纏い、腐臭を漂わせ、悪鬼亡者がおぞましい雄叫びをあげる。 違う、あれは腕なんかじゃない。 ストレイボウは脳裏を侵した妄想から我に変える。 周囲の温度が上がっていた。 地獄の釜を思わせる金属臭が鼻腔をくすぐった。 なんだ、なんだこれは!? 答えはすぐに出た。 ビリビリと微弱な電流の先駆けを感じたのだ。 帯電していた。 ストレイボウだけではない。 カエルが。 ジョウイが、魔王が。 ピサロと彼らとの間に立ち塞がる壁たるユーリルが、アナスタシアが、ブラッドが、マリアベルが、イスラが。 電荷を帯びた空気の檻に閉じ込められ、その恐るべき光景を目に焼き付けられることとなった。 「ジゴ――」 魔界の王がもたらす熱量に耐え切れず、雨がことごとく蒸発し霧と化した。 次いで、その余りに激しすぎる魔力の流動に耐え切れないのか、大地が激しく鳴動した。 今やピサロの足元から立ち昇りきり、巨大な全長を誇示している黒き雷竜に怯えるかのように。 恐慌は伝染していく。 木々が黒一色に染まり崩れ去る。 集いの泉が干上がり湖底を晒す。 大気が揺らめき炎上し燃え上がる。 ……早々雷どころではない。 地獄だ。 地獄そのものが現世へと顕現していた! その地獄とは他の誰のものでもなくピサロのものだ。 愛する人を護れなかった後悔と、愛する人を奪われた怒りと、愛する人を奪った者達への憎しみと、 愛する人のいない世界で生きていかねばならぬ辛さと、愛する人のいない現実への嘆きが幾重にも幾重にも混ざり合った若き魔王の心象風景。 「――スパークッ!!」 その世界の君臨者、漆黒の雷竜が顎門を開く。 逆鱗に触れた者達に牙を穿ち立てる、それだけを王に誓い。 竜が蛇行を開始する。 一陣の矢となってカエルを、ストレイボウを、障害たる全ての敵を貫かんと。 虚無する激情が、解き放たれた。 「う、うわああああああああああああああああああああ!?」 夜の闇を更なる黒で汚しながら雷竜が迫る。 真っ直ぐ、真っ直ぐストレイボウとカエルの元へと向かって。 道中の雑物達を尾の一振るい、胴の一轢きで粉砕し文字通り雷そのものの鋭さをもって襲い来る。 ストレイボウは悲鳴を上げた。 彼自身が一流の魔法使いであるが故に分かってしまったジゴスパークの威力に。 あますことなく浴びせられたピサロからの憎悪の念に。 死ぬ、殺される、俺は、ここで!? この錯乱は彼が克服しきれていない心の弱さによるものだけではない。 霊魂として過ごした時間が彼から戦士としての心の持ちようを奪い去ってしまっていた。 考えてもみて欲しい。 ストレイボウは死後気も遠くなるような時間を過ごして来た。 その間彼の心を占めていたのは友を裏切ったことへの悔いと弱き自らへの嫌悪ばかり。 戦いのことなど考えたこともなかったのだ。 再び肉体を得て友をこの手で止められる日が来ることになるなど思いもしなかったのだから。 或いは、それもまた弱さか。 霊魂の身では何もできないと自ら動くことを捨てただただ後悔の泥沼に浸かることを選んだ報いか。 数えることなど叶わぬ時の流れはストレイボウのなけなしの強さを――死と隣り合わせである戦場に立つ強ささえ磨耗させてしまった。 新兵も同然なのだ、今のストレイボウは。 そのことに、生き返って以来今に至るまで一度もまともな戦闘をこなしてこなかった為気付けなかったのは何たる不幸か。 ストレイボウは考えられる限り最悪の形で気付かされることになった。 死した身で長きを過ごすうちに忘却してしまっていた死への恐怖と対面するという形で。 「ブ、ブラ、ブラックアビスゥウウウウ!」 「駄目だ、ストレイボウさん、それじゃ打ち消せない!」 なればこそのこの愚行。 カウンター前提の魔法をあろうことか迎撃に使ってしまうとは。 傍らのジョウイや雷竜の行軍に巻き込まれたマリアベル達のように自らの身を護ることを優先に魔法を盾にしておけばよかったものを。 そうすればダメージの軽減程度にはなったし、何よりも自らのちっぽけさを目の当たりにすることもなかったろうに。 一秒もかからなかった。 深淵の名を冠したストレイボウの全長ほどある――つまるところ雷竜の爪程度の大きさしかない三つの黒塊は。 ストレイボウが言うところの究極魔法は。 たかが深淵を覗いただけの存在が地獄を見てきた魔王に勝てるはずがないと言わんばかりに、あっけなく地獄の雷の前に消し飛んだ。 「――――――あ」 魔の王が怒りのままに際限なく魔力を込めて撃ち出した魔法がいかにして常人の魔法使いの手で破れようか? 古来より、魔王を倒せるのは勇者だけだと決まっている。 ストレイボウも嫌なほどそのことは知っているではないか。 「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ!?」 この島にもう勇者はいない。 魔王に打ち勝てるものは一人が勇者であることを捨て、一人は魔王と手を組んだ。 ならば。 他に魔王に拮抗し得るものがいるとすれば、 「余計なことをしてくれたな、そこの人間……」 それは同じく魔王を名乗る者のだけだ。 「よせ、魔王。これは俺が撒いた種だ。手なら貸す、ストレイボウを責めるな」 「貴様の知り合いか? どうりで無様な姿がいつぞやの腰抜けに重なるわけだ。 フッ、思い出話は後回しにしておくか。手助けは不要だ。この程度、私ひとりでどうとにでもなる」 着弾間近の電撃を胡乱げに見つめ赤きマントを靡かせて魔王がカエルの前に出つつみっともなく腰を抜かした魔術師を嬲る。 しかしストレイボウには魔王が投げつけてくるどんな嘲りの言葉よりも。 「……お前がそういうのならそうなのだろうな」 カエルのその言葉が痛かった。 魔王のことを信用してはいなくとも信頼していることがありありと分かってしまったから。 「カエル……」 縋るように発した声はカエルに届くことはなかった。 より強き力を持つ言葉に打ち消されて。 「地獄の雷よ。貴様も聞け、黒い風の泣く声を」 風が、吹いた。 魔王に向かって風が吹いた。 魔王の前後左右を護るように現れ回転し出した四つの魔力スフィア。 それらは万物を吹き飛ばすのではなく、巻き込むことで風を発生させていた。 ごうごう、豪豪、業業。 風は渦巻くたびに本来透明のはずのそれが黒と白に染められていく。 この地に漂う無念や絶望を、希望や祈りすらも次々と己が糧として飲み込んで、空間ごと大気中のマナを食らっているのだ。 世界に満ちたマナは魔王へと供物として捧げられ、大気が枯れ果て凍りつく。 絶対零度の風が吹き荒れるその世界はコキュートスのよう。 しかれば世界が凍結するのも道理。 「ダーク――」 風が、死んだ。 耳をつんざく悲痛な嘶きを最後に風が消失した。 風だけではない。色が、音が、匂いが消失した。 魔法陣が。 生命の力を奪い尽くした魔力スフィアが転じた魔方陣だけが。 地獄の浸食を妨げるかのように天と地に刻まれた白と黒の三角形の魔方陣だけが。 静止した灰色の世界を彩る結二つの色だった。 ジゴスパークがそうであったように。 全てが失われた寂しき世界こそが魔王の瞳に映る現世なのかもしれない。 「――マター」 現世を擬似的な冥界と化す禁術を完成させる呪文が響いた。 ▼ そこから先はアポカリプスの再現だった。 虚空にて、地獄と冥界が衝突する。 互いが互いに法則を上塗りしあい世界を書き換えていく侵し合い。 触れ合うたびに否定しあう存在の拒絶。 雷竜がのたうつ。全身をくねらせ、尾を振るい、爪牙を突き立て冥府の檻を震撼させる。 魔法陣が重なる。欠けた半身を補い六芒星に戻らんとして天地に横たわる雷を邪魔するなと圧壊していく。 見る間に地獄が罅割れ、冥界が砕かれ、竜が解け、魔法陣が崩れゆく。 時として数えるなら一秒にも満たない時間。 咲き誇った火花の数は計測不能。 世界が崩壊しているのだと言われたのなら誰もが間違いなく信じてしまうその光景は。 完膚なきまでに相殺しあった結果、始まりとは逆に、ひどく唐突に、何の予兆もなく、おぞましいほど静かに終焉を迎えた。 「……終わった、のか?」 誰かがようやっと呟いたのは思い出したかのように雨が再び降り出してからのことだった。 ▼ 時系列順で読む BACK△105 第三回定時放送Next▼106-2 届け、いつか(後編) 投下順で読む BACK△105 第三回定時放送Next▼106-2 届け、いつか(後編) 098-3 Throwing into the banquet アキラ 106-2 届け、いつか(後編) アナスタシア ロザリー ピサロ ユーリル イスラ カエル 魔王 ブラッド マリアベル 101 原罪のレクイエム ジョウイ ストレイボウ ▲
https://w.atwiki.jp/nihonsaigo/pages/64.html
第十五話 『いつかみた地』 第十五話 『いつかみた地』ステージ概要 モンスター 入手アイテム ボス ステージ概要 動画到達レベル 22 熟練度:?ターン以内にゼイドラムのHPを60%以下にする クリアボーナス: 第一話からご無沙汰だった謎の建造物に突入。 ゲストからロフが登場する。相変わらず硬くて避ける上に高火力。 火力についてはむつみでほぼ無効化できる。詳しくは動画参照。 また、ここではFGのEDに登場したルミナが初登場(グラ的な意味で)する。 元ネタはRu氏の尊敬する方のゲームからのゲスト出演らしい(許可済みとの事) ゼイドラムはダメージを与えないでも一定ターンで撤退の模様 すなわち、こなたが抜きでも進めることは進める(熟練度は獲得できないが) モンスター 登場モンスター 備考 異界の最新砲台 ビーダマンのバトルフェニックス。炎に弱い。 放課後のジョーカー いなずまを使う。元はグラはROのJK、名前はVIPの放課後のJK? たかまサンシャイン64 いつもどおりのたかまさ。動画で即デデーンされた。 入手アイテム 入手アイテム 入手方法 ハイブリットアーマー 建造物2Fの宝箱 たこ、かに、えび2個ずつ 建造物2Fのブルーボックス ボス 名前 備考 ゼイドラム 高命中高装甲高回避と三拍子揃っている。装甲はかなみですら10しか与えられないくらい硬いので、素直にこなたの無心剣を。全体攻撃がないのでむつみの挑発→防御がおいしい。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1594.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/起きないあいつ 上条当麻は走っていた。 向っていた。あの日と同じように。 そこに居るであろう、女の子の元へ。 人通りが途切れつつあった通りの物陰から目に前に飛び出した人影。 一瞬身体が構えを見せたが、すぐに警戒を解いた。 「かみやん、お疲れさんだったぜい」 「土御門…」 「今から行くのかにゃ?」 「…そうだ」 「で、かみやんはこちらを選ぶと?」 「…許してもらえるかどうかも含めて」 「んにゃ?」 「俺に選択の余地は無い…しな」 「フラグメイカーの名は伊達じゃなかった、ってとこかにゃ」 「それはどういう意味…」 「ま、言葉通りだぜい。最近は女の子だけじゃないみたいだしにゃ…」 「え?」 「北極からのお帰りがバージニア級で、こっそりポーツマスへ上がるたぁ、ちょっと演出がきついぜい…」 「うっ…」 土御門の目が一瞬細くなったように見えた。 (何があったかはわからねぇが、ま、しょうがないか。いずれは、ということか…) 土御門が言葉を繋ぐ。 「ところで、かみやん」 「なんだ…」 「今夜、ご入用のものは、新聞受けにでも入れておくからにゃ。」 「何のことだ?」 「まぁまぁ、俺とかみやんの仲だぜい。まかしとけって」 「お前一体何を…」 「さーさー、王子様はお姫様をお迎えに行くんだぜい。がんばれ、かみやん」 「…ありがとうな、土御門」 「さっさと行けってぇの。彼女に恥かかすんじゃないぜい」 上条はさっと右手を上げると、再び駆け出した。 十六夜の月は、学園都市の上にかかりつつあった。 川面に映るその光は、満月のようにも見える。 しかしそれは満ちていく月ではなく、これから闇に向って欠けていく月なのだ。 ときおり川風が美琴の顔を撫ぜていく。 あの日の川風は、まとわりつくような、ねっとりとした湿り気をはらんでいたが、今日のそれは熱気は無く、鋭く透明感のあるナイフのような冷たさに変わっていた。 美琴にはその冷たさが、自分の心の表面に傷をつけていくように感じていた。 なのに今日は不思議とこれまでのようにチクリとした痛みや、ザラリとした苦さを感じることも無かった ――アイツがいなくなってどのくらいたつのかな ――もう昔のような気もするし、でもついこの間だったような気もする… ――最後に見たアイツの顔、ぼんやりとしか思い出せなくなっちゃったな ――アイツ、きっと帰ってくるよね。でないと私… ――でもなぜかな。今日はいつもより気持ちが楽になってる… ――もしかして、アイツ、私の傍に帰ってきてるのかな ――それって、もしかして…ううん、気のせい? ――でもなんとなくそうじゃないかって気もしてる… ――アイツ、バカだから、多分自分が今どこにいるかわかってないんだと思うな ――もしかすると帰る先さえわかっていないのかも ――私、アンタが帰ってくるまでいつまでも待っているから ――さっさとやらなきゃならないこと、すませてしまってよね ――もし本当に帰る場所がわからないのなら、私、アンタを見つけに行くから。 ――うん、きっと大丈夫。今夜はアイツのこと、信じていられる。 風に乗って、人が駆ける足音が聞こえてきた。 過去に何度も聞いた覚えのある懐かしい音… 御坂美琴がその方向に目を向けた瞬間…思わず息を呑んだ。頭の中が真っ白になる。 手が震え、口が渇き、喉がつまり、胸のドキドキが一気に早くなる。 遠くの街の明かりに照らされたシルエットは、ツンツン頭の少年。 愛しい気持ちと、なんとも言えない安堵感と、爽やかな高揚感がこみ上げてきて、 少女は、まるで何かに縛られたように動けなくなった。 少女の前まで駆け寄ってきた少年は、しばらくの間、下を向いてはあはあと息を整えていたが、大きく息をしたかと思うと少女に向かい、口を開いた。 「ただいま、美琴」 「お…か…え…り…、と…う……まあああぁぁぁぁ」 青白い月に照らされた少年の顔は、紛れも無く上条当麻だった。 彼の声を聞き、その顔をみた美琴の視界はぼやけた。 その瞬間、彼女の感情は一気に弾け、唸るような、泣くような、声にならない声を上げて上条の胸の中に飛び込んでいった。 美琴は溢れる涙を拭おうともせず、顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくった。 まるで身体中の水分が全て出てしまうかと思われるほどに。 頭の中は相変わらず真っ白なままであったが、それでも喜びが心から湧き続ける。 美琴は胸の奥に秘めていたものを、上条に向って全て吐き出していた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/起きないあいつ
https://w.atwiki.jp/konatsuka/pages/112.html
期末テストも終わって、私とつかさはいつものように二人で一緒に帰ってるところ。 かがみもみゆきさんもそれぞれ用事があるので私たちだけになったんだけど。 話題はクリスマスの予定になって。 「こなちゃんはクリスマスに何か予定あるの?」 「あー…ごめん、つかさ。私ちょうどその日バイトなんだよー」 「あう…そうなんだ」 「この日は特によくお客さんくるし、私だけ休むわけにはいかないんだ。本当ごめん」 そう。 商売柄、特にこういう時期にはお客さんがたくさんやってくる。 私ももうあの店で働いて長いし、結構それなりの役職に就かせてもらってるから、この肝 心なときに休むわけには行かないんだ。 …本当つかさには悪い、って思ってるよ。 「じゃあさ」 落ち込んでるかな、と思って隣のつかさを見上げたのと同時に。 「こなちゃんのお店、私も行っていい?」 Happy Merry Christmas,Sweet Lovers 大丈夫なのかな。 コミケの時のがトラウマになってるっぽいから、似たような人たちが集まる秋葉のコスプ レ喫茶なんかに、つかさ一人で行けるのかな。 まぁ、人口密度的にはあの時ほど酷くないけどね。 それに。 前にかがみとつかさとみゆきさんとでお店に来てくれた時も、いきなりカメコに写真撮ら れたらしいし。 しかも、今度はつかさ一人。 …心配だよ。果てしなく心配だよ。 でも。 「いつかみたいにかがみもみゆきさんも一緒に?」 と言おうと思ったけど。 大事なイヴの日に、恋人を置いてバイトするっていう負い目が先に立ってしまって。 いいよね、いいよね?なんて目キラキラさせながら見つめられたら。 結局言うに言えなくなっちゃったんだ。 つかさはいつもは天然でぽやぽやでお人よしなんだけど。 いざ、こうする、って決めた時は本当に押しが強い。 …毎度毎度押し負けてしまう私も私なんだけどさ。決して嫌じゃないけどね。 なんてうだうだ考えてる今この時は、これからお店に入る直前。 いけないいけない。 つかさが家のパーティ終わらせて店に来るまでは、きちんと働かないとね。 「…コナタ?」 「な、何?パティ」 「キョウはツカサとのDateはイイのですカ?」 「ん…つかさが来てくれるって」 「Oh!だからキョウのコナタはキもソゾロなのですネ?」 どこでそんな日本語覚えてくるのさパティ。 にしても、そんなに集中できてないのかな?私。 「キョウのコナタはヘンでス」 「ど、どうしてさ?」 「だって、Sweet loverにアエルというのに、ゼンゼンウレシソーじゃありまセン」 やっぱり、顔に出ていたんだろうか。ってか、その部分だけネイティヴ・イングリッシュ で言われるとものすごく恥ずかしいんだけど。 「Dance timeだって、コマカいところマチガエてました。そう…Anxietyでもあるのデス カ?」 「あ、あんざいえてー?」 「ソーリー、シンパイゴト、っていうイミでス。キユー、ともいいますネ」 「パティは鋭いね」 隠し事しててもしょうがないので、素直にうなずいておいた。 さすが、日本(のオタク)文化に惚れて来日しただけのことはあるよ。日本語が上手なこと も含めてね。 「ワタシとコナタのナカじゃありませんカ!ソーダンゴトがあるなら、イってクダサ イ!」 「わ…ちょ、ちょっとパティ?」 いつになく真剣な眼差しで、長身をかがめて私に視線を合わせて。 ってか…力になってくれるっぽいのはありがたいんだけど、聞く人が聞いたら誤解される 発言はやめてよ。 「コナタがMerancoryだと、ワタシも、ミンナもエイキョーされまス!シンパイゴトはサ キにカタヅけておくのが、Professionalとイウモノじゃないですカ!」 「わ、わかったよ…じゃあパティ?一つ頼まれてくれるかな?」 「オーケーデス!Titanicにノッたつもりでマカセなさイ!」 The Queen Elizabethでもイイですヨ、なんて付け加えてくれたけど。 パティ… 両方とも航海初日に沈んだ船だよそれ。 で。 私がパティに頼んだことは、単純なもの。 私がつかさを迎えに行く間、穴埋めして欲しい、ってこと。 つかさが来るのは、どう頑張っても閉店1時間前程度。 家でパーティを終えて、秋葉まで電車乗り継いだら、どうしてもそのくらいになってしま う。 私は、そのちょっとした間に抜けさせてもらう。 その間の店のことをパティと長門さんにお願いしておいたのだ。 勿論、仕事は休憩時間もそこそこに目一杯やったよ。 Interlude(つかさ視点) 「つかさ?本当についていかなくていいの?」 「大丈夫だよ~お姉ちゃん。前に一度行ってるから道はわかるし」 「あんたが一度で道覚えてるって言うのが信じられないわ」 「あう…それはちょっと酷い…」 だって、こなちゃんが勤めているお店だもん。 まっすぐたどり着きたいから、一生懸命に覚えたんだよ。 多少ゆきちゃんに助けてもらったりもしたけども… ちなみに、今日の事お姉ちゃん達に言ったら。 「こなたちゃんと一緒なら心配ないわよね。遠慮しないで楽しんできなさい」 「年頃の女の子が、こんな夜遅くに出るのは心配だが…気をつけて行ってくるんだよ」 と、お母さん、お父さん。 「つかさもやるわねぇ。イヴの晩にこなたちゃんと一緒なんて」 「あんまり夜中までやりすぎるんじゃないわよー。こなたちゃんもお仕事でお疲れなんだ からね」 「こら!まつり!下世話な事言わないの!」 何を期待してるんだろうお姉ちゃんたち。…想像つかないわけでもなく…いや、寧ろあわ よくば…なんて…あああー、想像しちゃったら凄いことになっちゃったよぉ! で。 理解ある家族に見送られて、最後はお姉ちゃん。 「頑張ってくるのよ」 「うん!」 何をだろう、なんて深く考えないで返事しちゃったけど。 行ってきまーす、って家を出る間際に。 妙にニヤニヤしてたお姉ちゃんが見えて。 …慌てて走って。 駅に着く頃には汗かいちゃったよ。…走ったから、というだけじゃない汗もだけど。 こなちゃん、今どうしてるのかな…お店、忙しいよね… でも、やっぱりイヴの夜だし会いたいよ。 Interlude out さて。 そろそろつかさが着く頃合かな。 お客さんの入りは…閉店間際だけどやっぱりこの日だからか、まだまだ盛り上がってる。 次のショータイムまでには戻らないとね。 「パティ」 接客から戻ってきたパティに、小声で呼びかける。 「オーケー。マカせといてくださイ」 何も言わないうちから、親指をぐっ、と立てて。 本当に頼もしい友人を持ったなぁ。私。 すぐ戻るよ、と言って店を出る間際。 何かパティが長門さんと話してるのが見えた。 「ワカってますネ?ナガト」 「…問題ない。私もその試みは非常に面白いと思う」 試み? 何を企んでるんだろう、パティ? まぁいいや。今迎えに行くからね。つかさ。 お店を出て、通りを一直線。 駅まで歩いても10分とかからない距離だ。 それを私は。 お店のサンタ衣装のまま、通りを走っていた。 「…こなちゃん?」 程なくして、あっさりとつかさを見つけた。 私の格好を見て、目を丸く見開いて。 「お仕事は?」 「ちょっとだけ、抜け出してきちゃった。つかさを迎えに行きたかったから」 「こなちゃん…」 「ふふ、ここでロマンティックに抱き合うのもいいけど…もう最後のショーまで時間がな いんだ。ドタバタして悪いけど、すぐ店に戻らなきゃ」 と、つかさに手を差し出して。 「うんっ」 つかさは、いつもの笑顔で、その手をしっかりと握ってくれた。 店に戻るまで、ずっとその手は離さなかった。 そして。 店の前に立つ。 「んじゃ、私は控えで準備してくるから、パティが出迎えてくれるはずだからそれまでゆ っくりしててよ」 と、ドアを開けた。 その瞬間。 パンッ!パパパンッ! 「うわわっ!」 きっと両手で数えても指が足りないほどの破裂音に出迎えられた。 面食らってる私とつかさに、 「Happy merry Christmas!Sweet Lovers! Surprise!!」 このネイティヴな英語…そんな流暢に英語を話す人間は、少なくともこの場には一人しか ありえない。 「「「「「「「「サプラーイズっ!!!」」」」」」」」 しかも。 いつの間にか、どうやって懐柔したのか、お店のお客さん全員がパティに習ってサプライ ズの大合唱だよ。 私、パティにそこまでしてくれって頼んだ覚えないんだけどな…って私が最後に聞いたア レか。 合点はいったが、言葉が出ない。 それはつかさも同じらしく、驚きのあまり固まってる。 そこへ。 「パトリシア・マーティンは、貴女のためにこのサプライズを短時間でお客全員に提案し た。…正しくは、貴女達のために。今夜、最後のショータイムは貴女達のためのもの。気 に掛ける必要はない」 長門さんの、端的な、それでいて詳細な説明に。 「ありがとう。長門さん」 先に言葉を返したのはつかさだった。 「…礼を言われるほどの事ではない。先ほども言った通り、これは貴女達へのお祝いであ り、日頃お世話になっている泉こなたへの思いも込められている」 つかさの無邪気そのものの笑顔に、長門さんもちょっとだけ赤くなってる。でもつかさは 私のだよ。 …ってか、私の方が物凄く赤面モノだよ。 パティめ~…こういう事だったのか… 「What's happened?コナタ?いつまでもスミっこにいたら、ハナシがススみません ヨ?」 こう言う時だけわざとらしく英語使わないのパティ。 「こなちゃん真っ赤だよ?」 「あう…じゃ、入ろうか、つかさ」 「うんっ」 店の中では、 「くぅ…こなたちゃん…」 「こんな可愛い子が恋人だって言うなら、いいさ…俺は潔く諦めるさ…」 なんて、お客さんの声が聞こえてきて。 あそこまで大々的にしなくってもよかったのに。嗚咽まで聞こえてきてるよ。 「Hi!ミナサン!このセーなるヨルにシメっぽいハナシはヤボというものデスヨ!キョウ はようこそ、ツカサ。ヘイテンまであとちょっとデスけど、タノしんでクダサイ。コナ ター!Let's show timeネ!」 勢いというか、パティの人徳というか。 さっきの余韻が覚めやらないまま、私はパティに最後のショータイムに出るべく、裏へ引 っ張られた。 閉店後。 お客さんがみんな帰って、後始末と掃除を終えて。 その間つかさを外で待たせてしまってて。 外寒いから店の中で待ってていいよ、と言ったんだけど。 「こなちゃん達の邪魔しちゃ悪いから」 って言われて店の階段で待っててもらってた。 「いかがでシタカ?ワタシのサプライズ・プレゼント」 「…まさかパティがそこまで策略家だったなんて知らなかったよ。私、パティの見方変わ ったかも」 「ツレナイですネ?おキにメしませんでしたカ?」 「…そんな事ないよ。つかさも喜んでくれたし」 「コナタはどうでしたカ?」 「…」 嬉しくない、なんて絶対にない。 でもお客さんまで巻き込まなくても、もうちょっとやり様があったんじゃないのか、なん てのは。 「ワタシ、コナタのコト、スキデス。でも、それはLoveではナく、Friendshipですヨ。だ から、コナタにヨロコんでホしくて、シュクフクしたかったのデス。ツカサと、コナタ を」 ちょっとやり方がアレだったけども。 それもパティなりに私達を応援してくれてるんだ、ってのがわかったから。 「…ありがと、パティ」 「Mm、そのコトバでワタシ、ムクワれましタ」 そんな満面の笑みで言われたら、もう返す言葉もないよね。 「お疲れ様ー」 「コナター、コンヤはおタノしみですネ?」 「パティ!…もう…」 店を出ると、すぐつかさが出迎えてくれた。 「お楽しみ?」 なんて小首傾げながら。 直後に思い当たる節でもあるのか、真っ赤になっちゃったけど。ってしっかりつかさに聞 こえちゃってるじゃないか。 「今夜は、来てくれてありがと、つかさ」 「ううん。私が無理言ってお邪魔しちゃったんだし」 「でもね」 最初はとっても心配だったけど。 つかさに会えて、とっても安心したんだ。 「嬉しかったよ」 「こなちゃん…」 安心したと同時に、終わってから何かしんみりきちゃって。 「私、ダメな彼女だよね。イヴだってのにつかさの事置いてバイトなんて」 「そんな事ない!仕事放り出さなかったこなちゃん、すっごい偉いと思うよ!それに…こ ういう仕事だ、っての知ってるから」 「ん…でもね。私パティ達にも世話かけちゃったんだよ。なのに、皆暖かくさっきみたい に祝福してくれてさ」 「こなちゃん」 私がさっきの反省してるところに。 急に暖かい何かに包まれた。 「みんな、こなちゃんのことが好きなんだよ」 だから。 あそこまでの事をしてくれたんだ、と。 さっきパティに言われた台詞をそっくりそのままのし付けられて。 「だから、そんな皆に祝福された私は、すっごい幸せ者だよ」 なんて。 つかさに抱きしめられてる、と気付いたのは、その言葉から数秒経ってからだなんて。 だから。 遅ればせながら、私もつかさの腰に腕を回して、ぎゅ、と抱きしめてやる。 「だから、湿っぽいお話はこれで終わり。パティちゃんも言ってたよね?そんなのは野暮 だって」 だって、今日はクリスマス・イヴなんだから。 恋人同士が、聖なる夜を祝福しあう日なんだから。 夜はこれから。 とことん楽しまないと、もったいないじゃない。 その認識は、私も同じ。 だから。 「あのね、つかさ」 「何?」 「今日、うちに泊まっていきなよ」 そう。 夜はまだまだ、終わらない――― ■作者別保管庫(4スレ目)に戻る コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/itukahorobi/pages/2.html
更新日記 キャラ キャラシートテンプレ キャラ一覧(アルカナごと) + ... キャラ一覧-大アルカナ キャラ一覧-小アルカナ(wands) キャラ一覧-小アルカナ(swords) キャラ一覧-小アルカナ(cups) キャラ一覧-小アルカナ(coins) キャラ一覧(単独ページ) + ... 【旅人】 【火騎士】 【給仕】 【黒魔女】 【孤児】 【見張り】 【酒場主人】 【舟人】 【情報屋】 【先生】 【占星術師】 【迷宮狂い】 【領主】 【領主娘】 【絵描き】 【小間使い】 【偽史家】 【巨女】 【小人】 【墓守】 【巫女】 【自警】 【役者】 【地図師】 【細工師】 【小間使い】 【回収屋】 【雑貨屋】 【踊り子(舞い手】 【医者】 シナリオ メインシナリオ 掌編・フレーズ置き場 + ... 拝啓、臆病者より 【黒魔女】さんの楽しい魔法講座 【絵描き】との会話 【孤児】について 【占星術師】インタビュー 【小間使い】インタビュー 【偽史家】の年表メモ 脳内審議中短編-【火騎士】【先生】 脳内審議中短編-【黒魔女】【給仕】 脳内審議中短編-【見張り】【団長】 メモ置き場 初期構想 世界地図 勢力案だし 用語集 魔法的なものについて 迷宮・迷宮都市の成立 迷宮内部について ミーティング議事録 + ... 0810ミーティング 世界観ブレスト ここを編集
https://w.atwiki.jp/mhwyumi/pages/67.html
通常矢強化と剛射強化どっちの方が強い?→両方強くない 説明 スキルレベル ボウガンの通常弾または弓の通常矢の攻撃力が上がる Lv1 通常弾、通常矢の威力UP Lv2 通常弾、通常矢の威力UP ※無印→IBで下記に変更 スキルLv2が追加 効果詳細・解説 Lv1で物理1.1倍 Lv2で物理1.2倍 通常矢、カズヤ、剛射を使い分けて戦う今作は シリーズ過去作よりも恩恵が分散するものの それでも装飾品1個で1.1倍の火力増加は魅力 剛射強化などとの併用も特化型もロマンがある 倍率の掛かり方が歴代シリーズと異なっており 今の1.1倍は過去の1.1倍より少し評価が下がる 詳しくはダメージ計算式の項を参照 (爪護符薬猫飯なし元の攻撃力にしか掛からない) このスキル、過去作までは集中に次ぐ定番スキルで 無属性弓が幅を利かせていた遠因の一つでもあった MHWはモーション値、溜め倍率、距離補正、瓶等 物理関係の数値が諸々低くなってる要因が重なり 属性値と手数で攻めた方が火力が出る現状で ぶっちゃけ他の火力スキルに株を奪われています 属性ダメージを優先すべきだとか… 属性会心の為に会心率増やすのも良いねだとか… 破格のLv1で1.1倍だから雑魚スキルではないよ でも神格化するような奴は表示ダメージ見てみよう 歴史 MHWより前 集中に次ぐ定番スキル 元祖選民wiki「通常弾・連射矢UP」を参照 MHW無印(下位~上位) 3スロットが1個余ったら入れる価値はあった ただしその余裕がないことが多い 物理値低い弓使う場合は乗算は都合が悪く 攻撃などの加算スキルの方が強いことも… MHW IB(マスター)~アップデート前 前作と同じ扱い 装備インフレで採用の余裕ができると思いきや 弱点特効(と赤い発煙筒)の実質弱体で 超会心を積むどころか スキル枠をいっぱい食う見切りを採用せざるを得ず余裕がない 属性・物理共に火力を上げるなら会心率は欲しい…!! というかそもそもLv3スロがねぇ! MHW IB(マスター)~アップデート後 Lv4スロと5%の会心付きで武器倍率も高い覚醒武器 超会心付きの装備で防具の総合性能も高い龍脈覚醒 トップの属性値に会心撃が付いたうえでオマケの会心率までついてる皇金武器 の登場から武器によっては会心撃+会心100%+属性強化Lv6すら難しかった環境から一変 Lv3超会心が当たり前に乗る超スキルインフレ時代に 弓でも人によって好みスタミナ回復強化や耳栓辺りを外せるなら Lv3をはめられるスロを一つや二つは開けられるはず 場合によっちゃというか少なからずLv4スロにはめることになり損な感じもするが 武器倍率が低めの皇金武器であっても通常のLv4溜め+剛射の組み合わせの立ち回りなら Lv1通常+Lv1散弾>逆恨みLv4ぐらいの強さはある 一通りスキルを積んだ後の詰みとしては有用になった 防具 頭 胴 腕 腰 脚 黒ディア αβ ※上位装備のみ ※赤色はLv2 護石 通常弾の護石(護石Lv1まで) 装飾品 強弾珠【3】(レア度7) 武器倍率*モーション値*距離補正*弾強化*肉質=ダメージ 爆破瓶付けて無属性化したジャナフ弓(武器倍率200)で 弾強化無しの206*8/100*1.25*1*0.8=11.5が12になるのに対して 209*8/100*1.25*1.1*0.8=16.55が16になっちゃうので単純に1.1倍ではない可能性 -- (名無しさん) 2018-03-07 16 02 39 1.1倍ではあるけど掛かり方が違うっぽいね。まぁでも速攻で書き換えるより1日ぐらい様子を見るよ -- (名無しさん) 2018-03-07 20 03 17 1.1弱としても珠一個の効果としては破格だろ 神格化するほどのもんではないが他に株奪われるわないわ -- (名無しさん) 2018-03-20 15 34 58 属性弓なら大体1.06倍くらいが目安、とはいえ属性強化LV3で1.1倍近くだから・・・ -- (名無しさん) 2018-04-05 08 03 19 まだ弾強化信者滅んで無かったのか -- (名無しさん) 2018-06-16 03 39 12 弓でしか試してないけど、これ付けると会心時のダメージが付けてない時と比べて少なくなる・・・ -- (名無しさん) 2018-09-10 02 33 22 IBの属性値修正でこの辺使ったほうが火力でるようになるのかね -- (名無しさん) 2019-07-09 11 46 02 なんだかんだ一通り欲しいスキル付けた次に欲しくなるのはこれ なお強弾珠くん -- (名無しさん) 2019-08-22 19 45 14 むしろアイボンアプデでより人権失いそうな希ガス 属性の上限撤廃がモロに響くスキルだし 付けてる=地雷認定受けそう -- (名無しさん) 2019-08-26 07 15 45 これ付けてる弓使いの何割が属性ダメージには乗らないって知ってるんでしょうね -- (名無しさん) 2019-08-26 13 12 10 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/tamagrail/pages/139.html
「オマエさ」 白目を剥いて伸びている敵マスターを適当に蹴り飛ばす。 既にサーヴァントは消滅した後で、その証拠に彼の右手からも令呪は完全に消えていた。 戦闘にかけた所要時間はざっと十秒前後。 瞬殺と呼ぶに相応しい"圧勝"を事もなく示しておきながら、それを誇りひけらかすでもなく。 苦いものでも食べたかのように舌をべろりと出して、眉間に皺を寄せながら振り返った。 「マジで弱ぇのな」 「うっっせえ……」 そこには大の字で横たわる、金髪の少年の姿。 顔中を青痣や土埃で汚した姿はいっそみすぼらしくすらあり。 しかし彼の左腕に未だ三画きっちり揃った令呪が残っていることが、彼がこの戦闘においては勝者の側に居る人間なのだということを物語っていた。 疑問が一つあるとすれば。 何故、戦闘自体は十秒そこらで決着したにも関わらず勝者側のマスターであるこの少年はこうもボロボロなのか? その答えは単純である。 サーヴァント同士の戦い"は"、すぐに終わった。 だが――マスター同士の戦いは、その限りではなかったというだけ。 「言っとくけど、オマエが戦ってたあいつは術師の中でも相当ヘナチョコな部類だよ」 「え゛っ!? 嘘だろ!? あの野郎の攻撃、一発掠るだけで意識飛びそうになるほど重かったんだぞ!?」 「だーかーら、そんだけオマエが弱っちいってこと」 事の次第はこうだった。 少年のサーヴァントが敵方を凸凹の目立つハンドボールのような形に変えてしまうまでの僅かな間に、独断で相手のマスターの前へと飛び出し。 そして拳を握り、殴り掛かったのだ。 しかし腐っても敵は魔術師。 気合と根性だけで超人と凡人の実力差を埋めるなど、所詮は寝物語の世迷言である。 少年は瞬く間にボロボロになった。打ちのめされ、引き倒され、血を流してのたうち回り。 ――それでも。 倒れることだけは、しなかった。 その異様な鬼気に魔術師が一瞬気圧されたその隙を、突いて。 少年は裂帛の気合を込めて叫びながら懐に踏み込み、がむしゃらな鉄拳を一撃。 打ちどころが良かったのもあるだろうし、相手が所詮無力非才の不良少年と侮っていたのもあろう。 だが事実として、少年の拳の前に魔術師は倒れた。 白目を剥いて伸びている様は、"完敗"の二文字がよく似合うそれで。 どんなに不格好でも情けなくても、少年は確かに"勝者"だった。 「なんであんな無謀なことした?」 「……あ?」 「オマエがマジで馬鹿なことは分かるよ。だけどさ、馬鹿なりに自分の身の程は分かってんだろ?」 そんな少年に召喚された、サーヴァント。 銀髪を海風に遊ばせる青年は、生きていた頃から今に至るまで弱者の心境というものを味わったことがなかった。 何故なら彼は、この世に生を受けた瞬間から既に誰よりも強かったから。 物心つく前から命を狙われ。そして自分の首を狙いに現れた全員を返り討ちにしてきた。 たかが子供と舐めて掛かった刺客が、自分の姿を一目見るなり脱兎の勢いで逃げ出すこともしばしばだった。 気分が良かったし――自分は強いのだと、驕りではなく事実としてそう確信出来た。 そしてその通り。 彼はまさに最強の術師だった。 持って産まれた術式も、戦闘のセンスも。 傲岸不遜を地で行くメンタリティも。彼は強者に必要な何もかもを、一切の努力無しに最初から持っていた。 「……オレだって分かってるよ。オマエに任せとけば、オレは何一つ痛い思いをせずに済んだって」 一方で。 何の因果か、そんな男を召喚せしめたこの少年は。 彼とは全く真逆の人生を送ってきた、凡人だった。 生まれながらの長所は特にない。腕っぷしも死ぬ気で頑張ってようやく中の上、どうやっても上の領域には入れない筋金入りの凡愚。 "最強"の男の隣に立つにはあまりにも不釣り合いな、路傍の石のような男。 それが彼だ。彼が恐らく百人、千人……否万人居たとしても、きっとキャスターに掠り傷一つ付けられないだろう。 「けど……そんなの情けなすぎんだろ!?」 だが彼は一つだけ。 キャスターが持っていないものを持っている。 彼は弱者だ。誰もが認める、弱くてダサい男だ。 頭は悪い、喧嘩は弱い。根がお人好しだから人にすぐ騙される。 そんな彼の唯一にして、最大の取り柄。それは―― 「オマエを振り回してるのは……オレのわがままだ。 わがまま言うだけ言って、後は強え仲間におんぶに抱っこなんて――ダサすぎる」 「そういうもんなんだよ、聖杯戦争ってのは。 召喚した側が、された側にわがままを聞かせて振り回すの。 逆に弱え奴が前線に出る方が遥かに迷惑。結局その無茶のケツ拭くのはこっちなんだよね」 「うぐっ……。それは、そうかもしれねえけどさ……!」 "諦めない"ことだ。 相手が何であれ、ケツに火が点いたなら怯まない。 何度殴られて転がっても、決して諦めない。 何度でも立ち上がる。相手が不良でも、魔術師でも。 キャスターはさっき、それを見た。 打ちのめされ、叩き伏せられ。 それでも諦めずに立ち上がって食らいつき、最後には明らかな格上の相手を怯ませ、その隙を突いて競り勝った。 とんでもない馬鹿だと、そう思った。 こんなに極まった馬鹿は今まで一度しか見たことがなかった。 「……そういえば聞いてなかったよな。オマエさ、何で聖杯に頼らないんだよ」 弱者の気持ちなど、正直今でも分からない。 この世界でもキャスターは確実に強者の側だ。 並の英霊では彼に傷一つ付けられない――彼の方は、マスターの不出来さ故に全力を出すことが出来ない状態だと言うのに。 それでもこの世界に集った大多数の奴原よりも、圧倒的に強い。 「――過去を変えたいんだろ? だったらさ、聖杯に頼って叶えた方が圧倒的に早えーよ。 この世界に居る連中がどの程度"やれる"のかは知らないけど、まあ俺が殺せないほどの相手が居るとは思えない。 オマエがゴーサインを出せばそれで終いだ。俺がさっさと聖杯戦争終わらして、オマエを聖杯の真ん前まで連れて行ってやるよ」 なのに何故。 彼は頑なに最短ルートを拒むのか。 そして自分は、何だってこんなガキにこうも付き合ってしまっているのか。 最強の彼は測りかねていた。だからこうして、らしくもなく先人面で試すようなことを言っている。 ……本当は、彼だって。 聖杯戦争という儀式に乗るよりかは、それをぶち壊す方が"性に合う"と思っているにも関わらず。 「要らねえ。聖杯には――頼らねえ」 「……だから理由を言えっての。何でそうまで聖杯を拒む? 聖杯の恩寵は眉唾物じゃ決してない。オマエの願いも、きっと完璧な形で叶えてくれるぞ」 「……それ、さ。本当に"完璧"かな」 少年は空の向こう、何処か遥か遠くを見つめているようだった。 それは元の世界かもしれないし、自分がこれまで歩んできた旅路かもしれない。 きっとどちらもであるのだろう。過去も、現在も、そして未来も。その全てを、彼は見つめていて。 「オマエの言う通りだよ、キャスター。オレはすげえ馬鹿なんだ。 ある時急にさ、過去に戻されてさ。オレの大好きだった人を救うことになってさ」 「……、……」 「最初は、ヒナ……そいつだけ助けて終わりの予定だったんだ。 なのに過去に戻る度に。過去に戻って、色んな人の生き様や想いに触れて、背負う度に……」 彼は――つまらない人間だった。 身の程を弁えなかった結果、負け犬に堕ちて。 目の前の圧政から逃げて、無味乾燥とした人生を目的もなく惰性で生きるだけの存在だった。 しかし、彼は変わった。 過去へと渡る力。タイムリーパーの資格。 初恋の人を救うために幾度となく時を繰り返す中で。 本来の歴史にはなかった絆を辿り、想いを受け継ぎ、未来を変える中で。 少年は"つまらない人間"から、誰かを奮い立たせられる"救世主"になることが出来た。 そして彼は此処に辿り着いた――流れ着いた。 「……誰も、見捨てたくねえって思った。 みんな救いたいって――みんな幸せになってほしいって、そう思うようになったんだ」 無論、現実はそう上手くいかない。 取りこぼす命。守れない命。守られてしまった、命。 少年の手のひらの隙間から、理想という名の水はどんどんこぼれ落ちていった。 その度に泣いた。その度に嘆いた。それでも……残った理想を守り通そうと、文字通り死ぬ気で頑張った結果が今だ。 「オレの願いのために……オレの大事な皆のために、この世界の奴らを犠牲にするのは簡単だ。 だけどそれをしちまったら――オレはもう二度と、オレの大事な人達に顔向け出来ねえ。 オレ自身を裏切ることは出来ても、こんなオレを信じてくれた人達のことは……、……絶ッッ対(ゼッテェ)裏切れねえよ」 「……此処じゃオマエの時間跳躍(チカラ)も使えない。 オマエがその甘さのせいで死んだらそれまでだぞ。それでもいいのか」 「だからオマエに頼ってんだよ……キャスター」 その両肩には重すぎるほどのものを託されてきた。 重い。とても、重い。 でも――捨てられない。 捨てられるわけがなかった。 今でも、自分の頭の中には彼らの笑顔があるから。 自分を親しげに呼んでくれた声が。自分に、未来を託してくれた言葉が。 色褪せることなく詰まっているからこそ、捨てられる筈なんてない。 土に塗れ泥に塗れ、血に塗れ誰に何を言われようとも。 「助けてくれって言ったんだ」 この未来だけは――諦められない。 「オレなんかよりずっと強くて、ずっと人望のある凄い人が……オレにそう言ったんだよ。 だからオレはあの人を……マイキー君を助けるまで絶対に止まれねえし、諦められねえ。 誰かの犠牲を良しとして進んだんじゃ、オレはきっとあの人の手を掴んでやれねえ! 約束を……守れねえんだよ!!」 オレを助けてくれ。 その言葉は今も、少年の――花垣武道の胸の中に残って離れない。 まるで呪いのようだ。そして、武道はそれでも良かった。 ああそうだ。これは呪いだ。オレに対して、あの人が刻んだ呪い。 ありがたい。 これで――忘れない。 何があっても。何に遭っても。どんな理不尽に出くわしても。 何度折れても、何度転んでも。何度ぶちのめされても、死にかけても、諦めそうになっても。 「――だから!」 それでも花垣武道は弱い。 そんなこと、彼自身が一番よく知っている。 だから彼は叫んだ。 ボロボロに汚れ傷ついて、もう指一本と動かせない身体で。 自分の運命共同体である、"最強"の男へと――恥も外聞もなく、涙ながらに叫び散らしていた。 「オレを――助けてくれよ、キャスター!」 キャスターは、ただ嘆息した。 情けのない奴。弱っちい奴。 弱い癖に背伸びと根性ばかり一丁前な、しぶとい奴。 言いたいことは山ほどあったが、こいつを相手に正論を説くことほど意味のないこともないように思えて。 そこでふと、思い出した。 「生憎だけどさ。俺、ヒーローじゃあないんだよね」 そういえば俺も。 「この俺と"対等"になろうとしたんだ。馬車馬みたいにこき使ってやるから覚悟しとけよ、タケミっち」 「……え。そのあだ名、オマエ――」 「あ? ただのあだ名だよ。そんな食いついてくんなよ、鬱陶しい奴だな」 ――正論、嫌いだったわ。と。 ◆◆◆ 花垣武道。 腐り切ったバッドエンドに挑み続け、今も諦めることを知らない少年がこの地に招いたサーヴァント――キャスター。 彼は本来であれば、サーヴァントとして召喚され得る存在ではなかった。 何故なら彼は、そもそも死んでいない。まだ、英霊の座に召し上げられるに足る資格を有していない。 此処に召喚された"彼"から幾らかの年月を経た未来で起こった、とある異常事態(トラブル)。 そして、武道が持つ"タイムリーパー"という類稀なる資質。 その二要素が奇跡的に噛み合った結果――今も現世とは位相の外れた異界で生きている筈の男が、この異界東京都に召喚されるに至った。 ただしその霊基は若き日のそれ。 術式のコントロールから、持ち得る経験則の幅まで。 全てが、全盛期には程遠い前日譚(リリィ)の範疇。 しかし、それでも――最強。 その称号を恣にする、六眼有する麒麟児。 「自分に出来ることを、他人には出来やしないと言い聞かせるのか――か」 自分の前を去った親友の残した言葉を反芻して、ケッと鼻で笑う。 不格好な呪いだ。しかしまんまと呪われた。 天上天下唯我独尊、自分が最強である限り全ては無問題だと。 そう信じていた頃に比べて、今は世界がひどく不自由に見える。 人の生きる世界は汚濁に淀んだ沼の底だ。 足を絡め取る藻や泥が跋扈し、悪いところを見つめ出したらキリがない。 そんな世界で、それでも名実共に最強を地で行く男はまだ前を向いていた。 誰よりも世界の汚れを色濃く認識出来る"眼"を持ちながら、それでもと。 かつての片翼が見捨てた世界を、今も歩いている。 このどうしようもなく腐りきったぐずぐずの世界にだって――探せば多少は、綺麗なものが埋まっているのだと知っているから。 花垣武道。あの少年は、世界の過酷さを既に知っている。 なのにその上で、まだ輝きを捨てていない。 既に手の届かない闇に歩いていってしまったロクでなしを、必ず連れ戻すのだと無明の暗夜へがむしゃらに歩み出している。 駄目だった。それをされたら――助けない訳にはいかない。 「出しゃばるつもりなら最低限仕事はしろよな。雑魚のお守りとかゴメンだからさ」 「……言われるまでもねえ」 起き上がることすら出来ない、疲労困憊の身体でそう強がってみせる"最弱"に。 "最強"は笑って、言った。 「――光栄に思いな、乗ってやる。この俺が……僕が、オマエの未来(ねがい)を叶えてやるよ」 【クラス】 キャスター 【真名】 五条悟@呪術廻戦 【ステータス】 筋力C 耐久EX 敏捷A+ 魔力A++ 幸運D 宝具EX 【属性】 中立・善 【クラススキル】 陣地作成:A 呪術師として"帳"を下ろす。 展開部と外界を遮断し、内部を外から認識できないようにする。ただし認識を阻めるのは魔術、呪術の素養がない非術師に限られる。 更に帳に特殊な条件を加える事で別個効力を付与する事も可能である。 【保有スキル】 無下限呪術:EX 五条家相伝の術式。収束する"無限"を現実にする。 キャスターの周囲には術式により現実化させた"無限"が存在し、物体や事象が本体に近付くほど低速化。接触が不可能になる。 瞬間移動や空中浮遊など応用の幅は広いが、術式の使用には非常に緻密な呪力操作が必要不可欠。 従って常時の発動は脳が高負荷に耐えられず焼き切れる危険を孕むが、キャスターは『反転術式』の会得によりそのリスクをゼロにしている。 反転術式:B++ 負のエネルギーである呪力を掛け合わせることで正のエネルギーを生み出し、人体の損傷を回復させる。 キャスターの場合他人に対して使用することは出来ず、自己回復の範疇に留まる。 キャスターはこのスキルによって、前述の『無下限呪術』のデメリットを事実上消滅させている。 無量の智慧:B 現代最強の術師であるキャスターは、限りなく万能に近い才覚を持つ。 英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、Bランクの習熟度で発揮可能。 未来の彼であれば習熟度はAランクになる。スキルを他人に授けることも可能だが、その場合ランクは格段に落ちる。 【宝具】 『六眼』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:- 特異体質。魔眼、或いは浄眼。 他者の術式・呪力を詳細に視認することが可能であり、またこの眼を持つ者は常識では考えられないほどの緻密な呪力操作が可能になる。 呪力消費のロスがほぼ皆無であるため、キャスターを使役するに当たってマスターに掛かる負荷はほぼゼロに近い。 対峙したサーヴァント及びマスターのステータスを宝具・スキルなどの固有能力を除いて瞬時に把握する。 『無量空処』 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:制限なし 領域展開。呪術の究極の形であり、規格外の呪力を持つキャスターの領域は文字通り絶大な効力を持つ。 しかしこの霊基のキャスターでは領域の展開を行うことは現状、不可能。 【人物背景】 最強の呪術師。 ヒーローにはなれなかった男。 未来の五条悟が呪物に封印され、現世とは異なる空間に隔絶されたこと。 それと異界東京都での聖杯戦争というイレギュラーな事態が奇跡的に噛み合い、不完全な霊基で召喚されるに至った前日譚(リリィ)。 親友と離別し、彼なりに大人になった辺りの情報を参照して呼び出されている。 【サーヴァントとしての願い】 自分の本体が封印されていることは理解しているので、仲間や生徒達が封印を解除してくれるまでは暇潰しも兼ねてタケミっちに協力する。 ……それにしてもこいつ弱えーな? 【マスター】 花垣武道@東京卍リベンジャーズ 【マスターとしての願い】 元の世界に帰り、未来を変える 【能力・技能】 タイムリーパー: トリガーとなる人物の手を握ることにより、過去と未来を行き来することが出来る。 異界東京都ではこの能力は完全に失われている。 未来視(ビジョン): 少し先の未来を映像として観測することが出来る。 ただし、タイミングや時間は武道自身にも選べない。 こちらの能力も異界東京都では失われているが、数秒レベルの短い未来視であれば発生する可能性はある。 【人物背景】 最弱の不良。 弱虫のヒーロー。 最終章開幕時点からの参戦。 【方針】 聖杯を手に入れて願いを叶えることは、出来ればしたくない。 未来は、オレが変える。
https://w.atwiki.jp/polpol/pages/198.html
[舞人] 「……あ、危なかった」 [その他] 舞人は、現在森を抜けていた。 ブタバナを振り切った後も、勢いが止まらないまま走り続けていたら、抜けてしまったのだ。 ちなみに、この台詞はブタバナに追われたこと以外にも意味があった。 [舞人] 「あぶねーあぶねー……もう少しで落ちるところだったぜ……」 [その他] 舞人の目の前には、崖があった。 森を抜けた先が崖になっていたのであった。 勢い余って落ちそうになった所で、漸く止まったのだ。 [舞人] 「こんなところ落ちたら、怪我じゃすまねーな……」 [その他] 舞人は崖を見下ろした。 下までかなりの高さがある。 スペラ○カー並みの耐久度しかない舞人が落ちたらひとたまりも無い。 [舞人] 「……つ、疲れたぁ」 [その他] 疲労と、恐怖が舞人の身体を襲う。 その場にどっかりと腰を下ろす。 考えてみれば、ツンディンを放っているのだ。 [舞人] 「……そういや、一発撃ってたんだっけ……それにしてもこの疲労感は異常……」 [その他] その場で舞人は寝転んだ。 目に入る青空、そして頬を撫でる風が心地よい。 疲労感も手伝い、一気に睡魔が舞人を襲う。 [舞人] 「……あーダメだ眠ぃ……寝かせてくれ」 [???] 「ならずっと寝かせてやろうか?」 [舞人] 「あー、ずっとは困るなぁ……エロいこともしたいし」 [???] 「それには同意」 [???] 「つ【夢精】」 [???] 「ちょwwwwおまwwww」 [舞人] 「その発想は無かったわwwwwってか誰だよwwww」 [その他] 舞人がむっくりと身体を起こす。 [???] 「じゃーん!!俺たちでしたー!!」 [舞人] 「げぇっ!!……って、誰?」 [その他] そこにいたのは、皆同じような金属の鎧と、剣で武装した集団だった。 [鎧男A] 「誰って……」 [鎧男B] 「えー知らないのー!?」 [鎧男C] 「知らないでいいのって童貞までだよねー!!」 [舞人] 「どどどどど童貞ちゃうわ!!」 [その他] 童貞、という単語に思わず反応してしまったチェリー舞人だった。 [???] 「俺たちを知らない奴がいたなんてな……」 [その他] その時、森から一人の男が出てきた。 ―――その男は、大きかった。 身体は勿論、身に纏うもの全てが、大きかった。 その身は、偉丈夫と呼ぶに相応しい。 [舞人] (うほっ!!いい大男……なんて言ってる場合じゃねぇ!!) [その他] そこで漸く、舞人は自分が囲まれていることに気付いた。 [舞人] (この、DQNにゲーセンで囲まれたような感覚……カツアゲ!?逃げようにも逃げられねぇ!!) [その他] 舞人は逃げる前に囲まれてしまった!! [大男] 「まあいい、今から二度と忘れられないように俺たちの名を叩き込んでやるよ……」 [その他] ゆっくりと、鎧男たちが近寄る。 舞人はただ、うろたえるばかりだ。 [大男] 「お前の身体にな!!」 [舞人] 「ひぃっ!!」 [その他] 大男の迫力に、思わず後ろに飛び退いた。 ……舞人はすっかり忘れていた。 [全員] 「あ」 [その他] 後ろが、崖だということを。 [舞人] 「ちょwwwwおまwwww」 [その他] 笑ったところでもう遅い。 アニメや漫画と違い、舞人の身体は地面へと落ちてゆく。 [舞人] 「こ、このままではすまさんぞぉぉぉぉぉ……」 [その他] 捨て台詞を残し、舞人は落ちていった。 [大男] 「……俺たち、何もしてないよな?」 [鎧男達] 「そ、そうっすよね……」 [その他] 予想外の出来事に、流石の大男達―――ガノタダ盗賊団も言葉を失くすしかなかった。 [鎧男A] 「んー……コイツ、何も持って無いっすよ?」 [鎧男B] 「この鎧も剣も見掛け倒し。棍棒、鍋の蓋レベルっすね」 [ガノタダ] 「はぁ……期待外れかよ」 [その他] ガノタダ盗賊団は、崖から降りて舞人の身体を探っていた。 最初は『うはwwww鎧とか高く売れそうwwww』とはしゃいでいたが、全てが見掛け倒しの代物。 団長の大男、ガノタダも溜め息を吐くしかない。 [鎧男C] 「……ん?団長ー、財布発見ー」 [ガノタダ] 「あー?あんま期待できないけど……貰っておくか」 [その他] 部下に舞人の財布を渡されたガノタダは、無造作にパンツに突っ込んだ。 [鎧男D] 「中身確認しないんすかー?」 [ガノタダ] 「あー?後でいーや……んじゃ、コイツ適当な道に放ってくるわ」 [鎧男E] 「えー放置でいいじゃないっすか」 [ガノタダ] 「こんなんで死なれたら夢見が悪いじゃねーか……よっと」 [その他] ガノタダは片手で、舞人を肩に担いだ。 舞人は返事は無いが、息はしていた。 とりあえず屍ではない。 [鎧男A] 「出たよビビリwwww」 [鎧男B] 「その図体でビビリとかアリエナスwwww」 [鎧男C] 「m9っ(^Д^)プギャーwwww」 [ガノタダ] 「やかましい!!」 [その他] どか、ばき、ぐしゃ 悪口を言った3人が、ガノタダの豪腕アッパーにより青空の一部になった。 [鎧男達] 「ムチャシヤガッテ…」 [その他] 残った者たちは、青空に敬礼した。 3人が、空で笑顔を見せた気がした。 [ガノタダ] 「はぁ……また森で張り込みすんぞー」 [鎧男達] 「いえっさー!!」 [その他] ガノタダ盗賊団は、再度森へと戻っていった。 ……そのパンツに突っ込んだ財布に、一生遊んで暮らせる金(と風俗割引券)が入っているとも知らずに。 ◎現在の収穫 舞人の財布……1000万ワロス相当の金塊+風俗割引券 ◎現在の被害 3人……青空の一部と化す [舞人] (うぅ……身体中がいてぇ……) [その他] ガノタダに街道に放り出された舞人は、身体中に走る痛みと戦っていた。 指一本動かすことも、目蓋を開くことも出来ない。 [舞人] (俺……このまま死ぬのか……?) [その他] おお勇者舞人よ、童貞のまま死ぬなんて情けない。 [舞人] (どどど童貞ちゃうわ……) [その他] 若干の余裕はありそうだった。 しかしその余裕も風前の灯。何時まで続くかは解らない。 [舞人] (も、もし死んだら……HDDのフォーマットと同人の処分を……) [その他] 死を覚悟していた時だった。 [???] 「……」 [その他] 声だった。 人の声が、舞人の耳に入った。 [???] 「……」 [その他] 優しげな声が、何やら呪文のようなものを紡ぐ。 舞人は、その声に聞き入っていた。 [???] 「……リ・ゲイン!!」 [その他] その瞬間、舞人の身体を心地よさが襲った。 [舞人] (い、痛みが……和らぐ?) [その他] 舞人の身体を襲っていた痛みが、じわじわと和らいでゆく。 [舞人] (だ、誰だ……) [その他] 目蓋をゆっくりと開く。 初めはぼやけていた視界が、ゆっくりと鮮明になってゆく。 そして目に入ったのは、黒髪の女性だった。 その女性は、舞人を見て微笑んだ。 舞人を安心させるように、柔らかな微笑みだった。 [???] 「もう、大丈夫ですよ」 [その他] その女性が言った。 聞いていて安心するような、そんな声だった。 [舞人] 「ふ、フラグktkr……がくっ」 [その他] そう呟いて、舞人は意識を失った。 次へ
https://w.atwiki.jp/sexson/pages/199.html
ジャンル 民謡、童謡 原曲・元ネタ I ve Been Working on the Railroad(民謡) 線路は続くよどこまでも(童謡) 作詞・作曲 作詞:佐木敏(日本語詩) 甲子園で演奏した主な高校 (2009春) 南陽工 (2009夏) 龍谷大平安 関連リンク http //www.nicovideo.jp/watch/nm7857140 ※8分45秒あたり (龍谷大平安 ver.) 備考 日本では、1962年にNHK「みんなのうた」の中で紹介され、童謡として愛唱されるようになった ※高校名は呼称で記載しています 一覧に戻る
https://w.atwiki.jp/battler/pages/8264.html
東方秋狼記・裏 その2:私を呼ぶのは貴方? 夏目千秋はどんな境界でも踏み越える。 まるで影のような男だ。幾重に網を張っても、そんなものはお構いなしにすり抜ける。しかしこの男の表情には影がない。陽気に笑ったり怒ったりビビったり、それは相手が妖怪だろうと変わらない。ぱっと見はバカそのものだ。 恐れるものがない、怖いもの知らず。だから何でもオープンに受け入れる。 それが夏目に対する、アリス=マーガトロイドの感想だ。 一晩過ごして翌朝、そう、まだ静流が図書館にいる頃。アリス達は日の出に合わせて地底探索へ出発した。やはり地底に興味があるのは自分だけではなく、彫物師で絵描きの月雲も取材がしたいと付いてきた。 瑞穂は慧音の見舞いの方を優先したのでここにはいない。彼女はほんわかした外見に似合わず、言い出したら聞かないタイプなので、付いていくなんて言われたらどうしようかと内心ヒヤヒヤだったが。 「すげぇ縦穴だったな。きっとあれが飛行石だぜ」 「僕はあの暴風はどのように吹き上げているのかが気になるんだが」 「あとは、あれだ。あの金髪ポニーの姉ちゃん。いなせで可愛かったよな」 「ああ、なんというか他人のような気がしなかったよ」 地底への関門。暴風噴き上げ岩舞う大穴を、浮遊する岩を足場にジャンプと自由落下だけで下っていくなどという、およそ人間らしくない芸当で踏破した彼らは、脳天気に感想を言い合っていた。 今は縦穴の終点にある開けた場所で休憩しているところだ。ティーセットの用意も万全、このアリスに抜かりはない。 「つーか、見たか月雲先生。アリスのスカートが風でさ」 「ああ、もちろん。残念ながら絵は描けなかったが」 「だよなぁ」 「どこ見てたのよあんた達は! というかもっと別の感想はないの!? 余裕なの!?」 岩や邪魔する妖精や妖怪を撃破してここまで飛行してきたアリスは思わず声を荒げた。こいつらは馬鹿だ。間違いない。 一晩いろんな話をして過ごしたせいか、アリスは彼らとずいぶん打ち解けていた。 「パンチラを目に焼き付けるのに必死で、余裕なんてとてもとても痛ぇッ」 「まったく……」 人形に頭を殴られてうずくまる夏目を横目に、アリスは優雅にカップを傾ける。 こんなバカ共でも、正直に言えば好意を持たれるのは少し嬉しかった。いつも一人でいるが、別に人嫌いというわけじゃない。友達がいなくても平気だが、いらないワケじゃない。ある意味、何事よりも読書を優先するパチュリーに似た感覚なのかもしれない。 ただ最近思うのだ。人形をもっと完成させるなら、もっと人間を知らなきゃいけないんじゃないか、と。 「ああ、こういう茶もいい」 月雲がのんびりと紅茶を飲みつつ感慨深げに呟く。取っつきにくい雰囲気を出しているが、なかなか女好きのする細顔だ。長髪を束ねて後ろへ垂らし、雅な和の装いに身を包む様はなんというか、とても絵になる。 ちなみに陣羽織の下には簡素な鎧を付け、刀を差している。実際に武家の出身らしい。 武家というと、アリスの頭に浮かぶのは年中無休の庭師だが、あちらの装いは質素で洋風だ。貫禄もない。 「さ、そろそろ行きましょ。上から妖怪が来るとも限らないし」 「妖怪なんていたっけか?」 「あー、まぁいいわ」 言いかけてやめた。つるべ落としに跳び蹴りをかましていたが、きっと岩と間違えたのだろう。 ティーセットをトランクにしまい込み、薄暗い洞窟を歩いていくと、橋に差し掛かった。 そのど真ん中で、弁慶よろしく待ち構えている女が一人。うなじに掛かるくらいの金髪から飛び出して見える耳はエルフのように尖っている。とても不機嫌そうな顔をしていて、ギリギリとハンカチを噛んでいるのがお似合いな感じだ。 何がそんなに気に食わないのやら。敵意が丸出しだ。怖い怖い。 ともあれ異国情緒溢れるペルシア風の服装は人形の参考になる。いいセンスだ。 無遠慮に観察していると、不気味な緑の眼で睨まれた。おかげで人里で買い物をしていると時々浴びる視線の正体がわかった。嫉妬だ。 「なんかこっち見てるぞ」 「あれは橋姫よ。ここの番人みたいなものね」 「なるほど、これは風情がある。お目にかかれて光栄だ」 いつの間にやら月雲は目にも止まらぬ速さで筆を走らせている。隙さえあれば写真を撮る、どこぞのブン屋に近いものがあるな、とアリスは思った。 「わかってると思うけど、ピクニックじゃないのよ?」 「あぁもちろんわかってる。地底探険だろ」 そんなやり取りをしていると、橋姫がだんだんと剣呑な目つきになっていく。 「あなた達のその余裕……妬ましいわ」 「常に余裕を保つのが都会派の嗜みよ。そこの二人はただの馬鹿だけど」 「何言ってんだアリス。俺はこう見えてツッコミなんだぜ」 「僕も、学はある方だと思っているがね」 即座に反論を入れてくる二人。たしかに余裕はあるようだ。 少なくとも夏目は、アリスが思うよりも多くの死線をくぐっている。肝が据わっているのは当然だ。そして月雲は芸術に掛ける心が恐怖を超越しているのだろう。どちらにせよ常人ではない。 「いつか来た人間みたいに賑やかに……! 妬ましいったらありゃしないわ」 「嫉妬狂いの橋姫……これは絵になるのかしら、絵描きさん?」 「そうだな、本音を言えばその怒りの形相を緩めてほしいところではあるが、何、その程度の空想は描いてもいいはずさ」 「ま、絵のモデルは笑ってた方がいいよな。嫉妬はどんな美人も台無しにするって仮名が言ってたぜ」 「……ッ、あんたたち、馬鹿にしてるの……!?」 ぶわっと妖気が噴き出し、緑色の水玉のようなものが橋姫の周りに現れた。 怒り心頭で弾幕勝負というわけだ。その動機が嫉妬という、何ともやりがいのない相手だが、仕掛けてくるのなら応えないわけにはいかない。アリスは勝ち気な表情で唇を舐め、トランクを開けた。 出てくるのは詰め込まれた人形達。その数、八体。 「上等! せいぜい後悔しないように戦う事ね」 まるで舌なめずりする肉食獣のように不敵な笑みを浮かべるアリス。 だが、腕試しが大好きなのはアリスだけではなかった。後ろから肩を掴まれる。 「待てよアリス。俺に任せろ」 「は? 何言ってるのよ。飛べないあんたに勝ち目はないわ」 「んなもん、やってみなきゃわかんねぇだろうが」 「じゃあ聞くけど弾幕なんて出せるわけ?」 「そこら辺は根性でカバーしてやるよ」 眉を吊り上げ至近距離で睨み合っていると、何かが高速で飛来し、髪の毛を数本切り取っていった。 橋姫の放った弾だと気付いたときには、すでに緑に光る大弾に囲まれていた。 「もういいわ……鬱陶しい。全員まとめて踏みつぶしてあげる……!」 地の底から響くような、と言ってもすでに地の底なのだが、ともかくそんな声で橋姫は開戦を告げた。 「楽しい楽しい弾幕ごっこと行きたいとこだけど、いきなりのピンチね」 「その割に、口元が笑ってるぜアリス」 「ところで僕まで勘定に入っているのはどういうことかね」 「気に食わないわ、その余裕……ッ」 ぎりっ、と歯ぎしりする橋姫に、アリスは自分のこめかみを指で叩いて言った。 「弾幕はブレインなのよ。心にティーセットがあれば、よりスマートな思考ができるわ」 「ティーセットねぇ」 「なかなか風流だが」 三人で顔を見合わせ頷き合うと、蜘蛛の子を散らすように駆け出した。 まずはこの完全に詰んだ状況を打破するところから始めよう。だがそれが難しい。仲間がいる今、お得意の魔法で周囲を吹き飛ばすわけにもいかない。というか二人はどうやって切り抜けるつもりだろうか。 ふと疑問に思って目をやると、二人とも迫る弾から逃げてこっちに駆け寄ってきていた。 「なんでこっち来るのよ!?」 「わりぃ、やっぱ無理だった!」 「そもそも僕は弾幕ごっこに興じたことなど無い!」 「だから言ったでしょう!」 三者三様に悲鳴じみた声を上げる。 どうしようもない掛け合いをやっているうちに万事休す。過去に魔理沙とチームを組んだこともあったが、本質がワンマンアーミーのアリスには全くの想定外の出来事だ。 だがそんな様子も楽しそうに見えているのか、橋姫はぎりりと歯噛みする。 「気に食わないわ……!」 ずんと迫る大弾の緑壁。 死んでしまえと言いたげに放たれた弾幕。当たれば痛いで済むはずがない。だというのに、すでに空きスペースは三人がやっと入れる程度しか残されていない。 「あんた達なんか、余裕を失くして泣き叫べばいいのよッ!」 ヒステリックに橋姫が叫んだその時、アリス達の周りで風が渦を巻いた。見れば黒い糸のようなものが洞窟の奥へ奥へと伸びている。その先端はここからでは見えないほどに。そして糸を握るのは、紅染月雲。 「残念ながら、そもそも僕に余裕など無いんだ。泣き叫ぶ余裕すらね……!」 轟ッ、と風が勢いを増した次の瞬間には、四人とも大竜巻に呑み込まれていた。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ 紅染月雲は緑の壁に囲まれ、追い詰められていた。 背後にはアリスと夏目。その様子から察するに、自分の存在がアリスの行動を制限していることは明らかだった。夏目は考えていることがよくわからない男だが、打開策に窮しているのは間違いなさそうだ。こんな事では付いてきた意味がない。口では取材のためと言ったが、実際は困難な状況に身を置いて心身を鍛えるためだ。そしてもしかしたら、地底に住むという心を読む妖怪、さとりに会えば力を制御するコツがわかるかもしれないと思ったのだ。 それがどうだ。この現実は。少々身体能力が上がったところで、妖怪相手には太刀打ちできないではないか。 自分には何ができる。 食べていくために彫物の才を使った自分は、ここを切り抜けるために何を使う。 決まっている。黒い鏡から得た力だ。あれから気配すらなくなってしまったが、夏目の話が正しければ自分に繋がったままのはず。そして、使い方は当人にしか知り得ない。 月雲は預かった黒鏡の破片を覗き込んだ。 思い出せ。どういう力か、何を視たのかを! (私を呼ぶのは貴方?) 応えたのは風だった。 これだ。確信を持った月雲は深く鋭い息吹で返した。力を貸せ、と。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ 古明地さとりは嫌われた妖怪の住む地底でもさらに嫌われ者という極めつけの少女だ。 その力は他者の心を読むこと。記憶までは読めないが、何かのきっかけで想起すればたちまち読まれてしまう。特に、過去を過去として捉えず、今という時間に生きる妖怪にとっては、首根っこを掴まれ続けている感覚に近いものがある。こればかりは嫌われ者の妖怪たちでもたまらないのだ。 だが古明地さとりは堂々と居を構え、決して卑屈になったりはしない。狂いもしない。 最高の精神強度を誇るのが、怨霊も恐れ怯む少女さとりなのだ。 だから古明地さとりは動じない。周囲に揺り動かされないだけの胆力を持ち心を読める彼女に、生半可なドッキリは通用しない。 得意技は催眠術と十八番奪い。トラウマ刺激で精神と物理のダブルアタック。 あぁ、さとり様万歳。まじパねぇっす。 「全て聞こえていますよ。心を読むまでもなく、だだ漏れです」 「おっとこれは失礼しましたー」 「なんというか変な人ですね、あなたは」 「そこは一つ、好奇心旺盛で研究熱心かつ実直勤勉と言っていただきたい所存」 「勤勉な人からそのような言葉はなかなか出てこないものですが」 結論。ジト目がチャームポイントで度胸の据わりまくった彼女をびっくりさせるには、そう、気配も心も何も読めない遠距離からの狙撃ドッキリしかない。そう、狙撃だ。 さとりはにま、と笑う。思わずにま、と笑い返す。 「目の前では狙撃も何もあったものじゃありませんね」 その時、轟ッ、とつむじ風が吹いた。 狙撃来たぁ! 「きゃぁっ」 何もしていないが、してやったり。さとりは短く悲鳴を上げた。 しかしそれは急な風に驚いたのではなく…… 「いってぇ……」 「なんなのよ、もう」 「とりあえず、うまくいったみたいだ……」 「きゅぅぅ」 唐突に現れた賑やかな四人組に押し潰されたからであった。 あとがき 上手いSSが妬ましい。小学生が妬ましい。パルパルパル…… というわけで裏ルート夏影塚、地底編です。字数の問題で没になったタイトルがこちら。 『彫物師の異常な能力 または彼は如何にして保留するのを止めて異能を使うようになったか』 嫉妬は目に見えない緑眼の怪物。くれぐれも食べられないように。 ≪前へ 【戻る】 次へ≫ -